単純に暇でありたい。

音楽トーク等

単純に暇でありたい。

【会話劇】筋肉少女帯の妄想と狂気に満ちた名盤『レティクル座妄想』

 

雪乃筋肉少女帯の『レティクル座妄想』ってアルバムは好き?」

浅水「お気に入りのアルバムだよ。でも好きというより、凄いアルバムだなって印象」

雪乃「言いたいことは何となく分かる。内容は暗いもんね」

浅水「そう。筋少って時にコミカル、時にドラマチックな内容が主だけど、『レティクル座妄想』だけはただひたすらに暗くて重い」

雪乃「テーマは【死と妄想】。電波、病みはこのアルバムがルーツと言っても良いんじゃないかな」

浅水ヒル夫妻誘拐事件で取り扱われてる、『宇宙人が住んでいるレティクル座』に関する妄想が繰り広げられてる。厭世主義の人がそんなレティクル座を羨望している」

雪乃オーケンさんのオカルト的な部分も入ってるね。久しぶりに聴いてみよっか」

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レティクル座行超特急

雪乃「本城さんが手がけたロックチューンだね。不安になるような始まり方で、タイトル通り、特急のように疾走していく」

浅水「曲そのものはカッコイイんだよね。自ら世を去った人たちと同じく、この曲の主人公もレティクル座へ向かう列車に乗っているんだよね」

雪乃「座席の向かいには怪我をした少女が居る。恐らく5曲目の"さらば桃子"に出てくる桃子ちゃんだよね」

浅水「そんな桃子は投身で世を去ったんだなって主人公は察している。桃子がレティクル座にはドアーズのジム・モリソンが"水晶の舟~The Crystal Ship"を歌うと言ってるけど、その水晶の舟もマグメルという死者の国に行く内容だからリンクしてるよね」

雪乃「全て妄想なんだけど、最終的に【罪人】【つまらない人】と見なされ突き落とされる終わり方が凄まじい」

浅水「主人公は【罪人】、桃子は【つまらない人】にあたるのかな」

蜘蛛の糸

雪乃「狂気的な笑い声が怖いんだよね、この曲の始まりは」

浅水「暗い曲だけど、オーケンさんの曲の中では代表曲だよね」

雪乃「これ、歌詞を読むと陰キャの妄想で留まってるけど、歌詞違いのバージョン"蜘蛛の糸 ~第二章~"の歌詞を読んだ時の衝撃といったら」

浅水「そうだね。"蜘蛛の糸"は願望と妄想だけ、でも"蜘蛛の糸 ~第二章~"は実行してるんだよね」

雪乃「歌詞に登場する【背中越しに笑うあの娘】は主人公にとっても特別な人で、笑ってくれてる理解者。でもそれは思い込み、実際は笑われてるだけというね」

浅水「そんな"蜘蛛の糸 ~第二章~"、主人公は実行しようとするも【あの娘】が笑ってくれてるから踏みとどまっている。だから先に【あの子】を消すことにした、簡潔にいうとそういった内容だね」

雪乃「でも主人公もレティクル座へ行く列車に乗ってるよね。って事はこの主人公は実行したにもかかわらず自身も絶命している」

浅水「これは芥川龍之介蜘蛛の糸に共通してる箇所があるね」

雪乃「狂気に満ちてるというか、オーケンさんの当時の精神ボロボロ具合が伺えるよね」

浅水「これが進研ゼミのCMに使われてたって凄いな……」

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ハッピーアイスクリーム

雪乃「内田さんらしい奇怪なロックだね」

浅水「タイトルって昔、同じ言葉をハモった際に『ハッピーアイスクリーム』と先に行った方がアイスを奢るっていう遊びから来てるんだよね」

雪乃「その相手が動く死体という、なかなかの狂気だね。そんな死体であるノゾミちゃんと桃子ちゃんが厭世家の主人公と会話してる」

浅水「ノゾミと桃子に『死後の世界はどうなんだ』と聞いている。そして悲観的な箇所を見せ、自身はいずれ消えてしまうんだろうと問う」

雪乃「動く死体については、この曲とは直接的な関係は無いけどオーケンさんの小説『ステーシー』に共通するところがあって、後に発表された"トゥルー・ロマンス"、"再殺部隊"、"リテイク"は動く死体をテーマにしてるね」

香菜、頭をよくしてあげよう

雪乃「本城さんらしいポップ色が強い可愛らしい曲なんだけどねぇ」

浅水「『香菜という子はバカだ。だから頭の良い人間にしないと』ということであの手この手を使って香菜を変えていこうとする、そんな内容だね」

雪乃「この曲だけシーンが違うけど、アルバムを最後まで聴くとこの曲の存在理由が何となく分かる気がする」

浅水「主人公は香菜を自分の価値観と合わせるべく変えていこうとした……と取れるけど、頭の良い人間にしないと生きていけなくなるから何とかしないと! そう焦る主人公とも取れる」

雪乃「当初、香菜ちゃんは『アタシは犬以下だから』だと自虐的だったけど、犬以下から【犬】くらいには賢くなったのかも」

浅水「その犬というのは──いや、これは妄想かな。人によっては桃子のことなんじゃないかとも言われてるよね」

さらば桃子

雪乃「橘高さんによるメタルチューンで、桃子ちゃんの投身を描いている」

浅水「確かに桃子が飛び降りたのは分かったけど、見て見ぬふりをしておこうという内容。"レティクル座行超特急"でも乗り合わせた人に身を投げたことを察されてたけど、同じく知らないふりをされていたよね」

雪乃「歌詞違いバージョン"1,000,000人の少女"は厭世的な女の子たちが集団自死をしてる内容に変更されているね」

浅水「100万人に対し"さらば桃子"は1人。数字の差が凄いね」

雪乃「"さらば桃子"の歌詞に使われてる【君(桃子)】が"1,000,000人の少女"では【僕(主人公)】になってる。後者では女の子100万人は主人公のことなど分からないだろうけど、主人公も命を絶とうとしているね」

浅水「それが"蜘蛛の糸"の主人公視点なら成立する気がするし、そうすればシングルの曲順の流れを組んでる。けどCM用に歌詞を書き換えただけって話。実際のところは分からないけど」

雪乃「それにしてはコマーシャルらしい歌詞じゃないけどなー。って"1,000,000人の少女"の話の方が長くなっちゃった」

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ノゾミ・カナエ・タマエ

雪乃オーケンさんがインディーズの頃に作った曲だけどお蔵入りになっていた。そんな曲をこのアルバムで蘇らせたらしいね」

浅水「事故死した少女の葬式で絡んだこともない同級生たちが泣いてるフリをしている。すると、葬儀場が大火事になり全員亡くなって、亡くなったはずの少女が歓喜しているという内容」

雪乃「曲名そのものは萩本欽一さんの番組で誕生したユニットのメンバーだよね。あと、少女が亡くなったけど蘇って歌い出すってところは、お蔵入りになったこの曲がダークな作品に生まれ変わったのと重ねてるような感じがする」

浅水「視点を変えたものが歌詞違いの"望み叶え給え"と"望みあるとしても (ノゾミ・カナエ・タマエ完結編)"で、"ノゾミ・カナエ・タマエ"に無いものは、女の子に想いを寄せている男が登場してること」

雪乃「その男が少女の葬式で悔しく思って、無差別に人間狩りをしたいけど、できないから神頼みをした。男の望みは叶ったかのように葬儀場が燃え盛って男は歓喜したけど、実際は男の望みとは全く関係なかった」

浅水「"望みあるとしても (ノゾミ・カナエ・タマエ完結編)"で、実は神様が何となく虐殺を始めたということが分かるよね。男の望みが叶ったんじゃなくて、たまたま重なっただけという。だから男も範囲のひとつだから消されてしまった」

雪乃「バッドエンドに満ちてるよねぇ」

浅水「未発表の原曲も歌詞は似てる。レティクル座というワードと少女は当然出てこないんだけど、男の子が夏の森で命を落として、絡んだことない同級生たちがファストフード片手に葬式に参列して『アイツは良いヤツだった』と悲しいフリしている。でもそのうち一人だけは男の子のことを知っていて偲んでいた、そんな内容だね。ちなみにこの原曲はライブ音源集『80年代の筋肉少女帯』で聴けるよ」

雪乃「現代風に言えば、同級生だからと葬式に参列してるけど、言うほど悲しくないのに『アイツのことは忘れない』とさも親友だったかのようにSNSに投稿してる人、みたいな感じだ」

浅水「そういう人、普通に居るよね」

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愛のためいき

雪乃「映画『時をかける少女』に使われた曲をただカバーしてるだけじゃなくて、セリフまで再現しているんだよね」

浅水大林宣彦監督が作曲も担当してるところも注目だね」

雪乃「静かに歌ってるけど、暗い曲の連続だからこの曲も落ち着いて聴けないんだよね」

浅水「でも次の曲なんてもっと暗いよ」

ワダチ

雪乃「内田さんによるテンポがとても遅くて重い曲。オルガンの音がさらに恐ろしさを出してる」

浅水「一部歌詞は杉良太郎さんの"君は人のために死ねるか"を用いてるね。ワダチは普通なら車輪の通った跡のことだけど、ここでは軌轍、先例のことを表してるのかな」

雪乃「木村久夫という人の遺書を引用して語りが入っているところは、聴いていて本当に暗くなった」

浅水「テーマは変わらず妄想だから、この曲も内容はただ死と妄想について歌ってる」

雪乃「これは重過ぎるね。一回聴いて二回目は素直に聴きたくないと思ったほど」

ノゾミのなくならない世界

雪乃「珍しく橘高さんと内田さんが共作している曲で、ポルカとメタルを融合したような、フィントロールみたいな曲だね」

浅水「ノゾミが幼い頃、目を瞑ると自分だけの世界を思い描けてたけど、成長してみると目を瞑っても何も変わらない。現実逃避しても無意味だという内容」

雪乃「ミュージシャンが好きになって、追いかけ続けてたけど急に冷めた。それはミュージシャンが変わったからだとファンは言う。cali≠gariの"マス現象"に共通しているところもあるね」

浅水「そんなミュージシャンに出会う機会があったノゾミは『昔、好きだった』と話しかけるとミュージシャン側がグイグイと来るという。イヤだから現実逃避しようとしても変わることはない」

パリ・恋の都

雪乃「本城さんが作ったヘヴィかつオシャレなロックだね」

浅水「恋人と一緒にパリに来たけど、恋人はこの世を去ってるから実質独り。けど恋人が居るテイで表面上は楽しくやっているけど、周囲の人からは『イタイ人が居る』と冷ややかな目で見られている。そしてセーヌ川に飛び込んで自ら命を絶って亡き恋人に会いに行く、そんな内容だね」

雪乃「ただ悲しい。アタシが知ってる音楽の中ではいちばん悲しい歌詞かも」

浅水「悲しいはずなのにパリで楽しくしようと何とか自身を奮い立たせてる。でもこのパリで最期を遂げた、これは後半で更に悲愴に打ちのめされたよ」

雪乃「たまに今のライブでも演奏されてるよね。オーケンさん本人も『歌詞は暗い』とは言ってるけど、曲自体はライブに映えるのは確かだね」

レティクル座の花園

雪乃「橘高さんによるバラードで、曲そのものは優しいよね」

浅水「タイトルから分かるように、これは桃子が憧れのレティクル座に来ることが出来て、好きだった人たちが迎えてくれてる。そんなレティクル座に来て良かったと幸せになって終わり──という風に見えて、所詮勝手な妄想に過ぎないんだよね」

雪乃「綺麗なバラードだけど結構キツイ。飛び降りて瀕死状態の桃子ちゃんは手当をされていて、今際の際でもレティクル座への妄想を続けている」

浅水「知らんぷりした人間は口を揃えて『レティクル座でみんなが幸せに暮らしてるだなんて、そんなものモルヒネ塩酸塩を投与したことで引き起こされた多幸感だ』『そもそも、桃子は昔から妄想を話してばかりで【嘘つき】と呼ばれてるんだから、どうせこれも妄想だろ』と言う。でも本人が幸せなら好きにさせておけばいい、という内容」

雪乃「妄想でも幸せなら世を去って良かったという桃子ちゃん。レティクル座の妄想というストーリーはこれで完結したけど、アルバムそのものは終わりじゃないのが当時のオーケンさんらしいよね」

飼い犬が手を噛むので

雪乃「そんな優しい曲を、引き続き橘高さんが作ったメタルチューンで突き落とす」

浅水「裁判によって【頭の良い人間】が【くだらない人間】を狩る、つまり消すことを許可された世界になった。でも狩るには自分自身が頭が良い人間であることを提示しなくてはいけない。認められなければくだらない人間、つまり狩られる側になってしまう。そんな人間を審査するのはこの世を去った人たち──要は証拠提示は不可能で、ダメな人間は何やってもダメだから、狩られるまでの人生を過ごしてくれという内容」

雪乃レティクル座への妄想じゃなくて生きてる世界の妄想がテーマになってるね」

浅水「最後の最後までとんでもない内容だし、まあ最後は『殺ったれ!』の連呼と狂気的な笑いでアルバムは終わるという」

雪乃「頭が良いという箇所は"香菜、頭をよくしてあげよう"の香菜ちゃんの頭をなんとか良くしたいというところを思い出した。ってことは、狩る権利がある【頭の良い人間】は香菜ちゃん?」

浅水「おそらく"香菜、頭をよくしてあげよう"の主人公がこの曲の語り部なんじゃないかな。そもそも曲名は諺の【飼い犬に手を噛まれる】から来てる」

雪乃「『普段から目をかけてる人に裏切られる』ってことだよね」

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浅水「犬人間でしかないはずの【飼い犬】である香菜に裏切られたという内容なら絶望にも程がある」

雪乃「飼い犬の香菜ちゃんは洗脳されてしまった。『生きることに怯えないように』というのは、この話を吹き込んで『香菜は狩られる側ではないんだよ』と教えた、『一人でも生きていけるように』というのは、『香菜は頭が良い人になったから、くだらない人間を狩ってくれ』」

浅水「けど、香菜を愛してた人は【くだらない人間】と見なし狩られた。そして現世で生きる人たちは全員くだらない人だから無邪気な香菜によって狩られてしまう。でも、それも全て妄想ということ」


雪乃「改めて、暗い暗い。その暗さにアタシは聴き終えた時は、しばらく呆然としてた」

浅水「でもその暗さってメンバーにも反映されてたみたいで、特に大槻ケンヂさんは精神的にかなり参ってたんだって」

雪乃「当時から聴いてたワケじゃないから詳しく分からないんだけど、この作品出た後は活動休止してたんだよね」

浅水「そう。それで再開した時の作品『ステーシーの美術』は筋少らしさが戻ってたよ」

雪乃「あの路線が二作品続いてたらとんでもないことになってただろうなぁ」

浅水「『続・レティクル座妄想』的な? それは考えたくないなぁ(汗)」

雪乃「そういえば、2018年にはMCAビクター在籍時の2作品とマーキュリーミュージック在籍時の2作品がボーナストラック付のデジタルリマスターで再販されたよね」

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浅水「今まではトイズファクトリーの作品だけ紙ジャケ再販されて、『レティクル座妄想』以降の4作品は無いのかと残念に思ってたけど、リマスターされて更にボートラ付で再販と聞いた時は喜んだなあ」

雪乃「ボーナストラックはアルバムに入らなかった"リルカの葬列"等が入るかと思ったら、デモやプリプロを入れただけだったねー」

浅水「でも、ファンにとっては貴重な音源だよね。"ノゾミ・カナエ・タマエ"、"レティクル座の花園"、"蜘蛛の糸"はプリプロ、"ハッピーアイスクリーム"、"香菜、頭をよくしてあげよう"、"さらば桃子"はデモ音源」

雪乃「だから"飼い犬が手を噛むので"を聴き終えた後にプリプロ音源が流れた時は、どんな気持ちで聴いたら良いんだーって戸惑ったなあ」

浅水「確かに(苦笑)。でも凄く良かったのが"レティクル座の花園"のプリプロだね。橘高さんによるギターインストになっていて、一部ノイズが入ってるけど聴きごたえがある」

雪乃「アルバムがトータルで暗いから、ボートラ6曲聴いて少しでも気持ち軽くなれたら良いよねえ。清涼剤というか」

浅水「そうだね。ただ、再販の帯のデザインは余り良くないから、帯もオリジナルデザインで復刻してほしかったなあ」

雪乃「あれは確かに良くない! まあ、リマスター再販してくれたんだから文句は言えないけどねぇ(汗)」


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